頂-ただひとり-の編-あみ- 第五話 6
  赤は、笑顔の表情を保ったまま私に近づく。

彼女の思考を読み取る。

「!!」

「やあ、お嬢さん、この間は、お世話になりました、

今回も、私の考えを読み取って、勝とうと思ってるんでしょ?

だけどね、今回はそういうわけにはいかないの。

だって、能力を使わなければ、あなたは、私に攻撃するタイミングを掴めない。

おまけに、今のあなたは、とってもフラフラ。

いくら、あなたが、強くても、私の考えを読めたとしても、そんなんで勝てるつもり?

すっごいナイスタイミングだよね、ありがとう、感謝するね。

もしかして、私って、能力を使わなきゃ人を殺せないとか思ってる?

ふっふっふ…

今のあなたは… しっかり、考えられる頭で、てめえを殺す手触りを感じながら、

じっくり、じっくり、嬲り殺してえんだ!」

痛烈な彼女の思考に、思わず、顔をゆがめた。

「そういう顔をした、ってことは、私のお手紙読んでくれたんだ?

一生懸命考えたんだよ、私、筆不精だからさあ…

だけど、頭で考えるだけ、ってのも案外大変だよね。

文面忘れちゃったら、あなたに読んでもらえないし。

まあ、実際忘れちゃったし、今即興で考えた部分もあるんだけどね。

読んでもらえて良かった良かった。

じゃあ、行くよ」

彼女はやはり、うすら笑いのまま、間合いを詰めてくる。

彼女は素早い動きで、ジャブを放ち、私の背後にまわるつもりだ。

彼女が一気に間合いを詰めてきた! 来る!

ぐはっ!

脇腹に、ひざ蹴りをもらった… 何故?

「大当り。あなたへの手紙を考えている時ね、ふと気付いたんだ。

あなたって、今その人が一番考えていることだけを読み取れるんじゃないか?って。

まあ、確証は無かったけど、何かそんな感じがして。

だから、試させてもらったんだけど、まあ、それでも確実にそうだ、とは言えないけどね。

でも、深い部分の思考が読めたとして、実際に読んでいるのは思考の表層ってことには、

何か意味ありげだよね?」

その言葉に無言でいる。それが、肯定を意味するとしても、今の私には何も考えられない。

「ガキが、調子に乗っていい様な世界じゃねえんだよ、裏社会ってなあな」

首根っこをつかまれ、地面に押さえつけられる。

「ガキかあ…結構需要あるんだよね…生かしたまま連れ帰って、

組織内のロリ豚どものおもちゃにしてもらえれば、案外、私の評価も上がるってもんかね?

しかも、それが、あの宮田家の依り代ってんだからな!

てめえにとっても、悪い話じゃねえんだぞ?

ただ、最初はちょっと痛いだけさ。

だけど、まあ、天井のシミでも数えてりゃあすぐ終わるさ。

気前のいいやつも多いからな、うまく取り入れば、てめえなら、大出世できるぞ」

もう、抵抗する力も何も無い…もう、それでもいいか…

どうせ、変態の相手をするしか能の無い私だ…それも一つの道…

「おい」

「!?」

私と「赤」が、声の方を見た。

ミリタリー風な、フード付きジャンパーと、ジーンズ、顔は、フードの中に隠れて見えない。

「誰だ」「赤」が聞く。

「正義の味方だ、その女の子を離せ」

「はぁ?」

私は、ジャンパーの人の思考を読もうとしたが、駄目だ…ということは…

「あなた、やばいよ、逃げた方がいいよ」私は、「赤」に言った。

「ああ? 私が、あんなひ弱そうなガキっぽいのに負けると思ってんの?」

先日私に苦戦しただろ、と言ってやりたかったが、そこはこらえた。

「おいてめえ、人がお楽しみの最中だってのに、邪魔すんじゃねえ!

そうか、てめえ、こいつと、ヤりてえんだな?

いいぜ、面白そうじゃねえか、見届けてやるよ、このぺド助野郎!」

「赤」が言い終えたその時、「赤」は、自分の右脇腹に風を感じた。

目の前のジャンパーの人は、いつの間にか消え…いや、赤の人の背後に…

「赤」の脇腹が深くえぐれて、血が滴り落ちる。

「が…な…これ…」

ジャンパーの人は、右腕を大きく上げ…右腕…?

彼の、右腕思わしきものは、大きく肥大し、手は無く、代わりに、刀の様な刃が、ハサミの様に

向かい合っていた。まるで、カニみたい。

「逃げて!」思わず叫んだ。「赤」の人は敵だけど、ジャンパーの人は、もっと違う、

別次元の何かだ。

ジャンパーの人が私を見た「逃げて? この人は君に…」

「その体、誰に与えられたの…?」

「これ? そう言えば、君はこれを見て驚かないのかい? 彼女の様に」

「赤」は、ただただ放心状態で、その場に座り込んでいた。このままだと、命の危険もあるだろう。

だが、どうすることもできず、ただただ恐怖の虜になっていた。

「…前田は…前田はどこだあ!」

「お! 君はあの人の知り合いなのか!

あの人は、俺を、正義の味方に作り変えてくれたんだ!

素晴らしい人だよ!」

私は、もう動かないはずの両足で、立っていた。

そして、駆けだして、彼との間合いを詰める筈が、引きずるように足を出すのが精一杯だった…

「無理しない方がいい、そうだ、堂座に会わせてあげるよ。知り合いなんだろ?

彼なら、医学の知識もあるし…」

「ふざけるなあ!!」私は、全ての力を振り絞って叫んだ。

「やれやれ、随分と嫌われたものだ」

私とジャンパーの人が、声の方を見る。

薄汚れたロングコート、ボサボサ頭、無精ひげ…一見みすぼらしい、ホームレス風な人…

だけど、妙な風格がある。この人の思考を読む…まるで深い、闇を見ている様な気分になる…

何も読み取れない…読めないんじゃなく、表層の思考っていうものがほとんど無い…

「前田…堂座…?」私が尋ねる。

「如何にも、私が前田堂座だ」  

 

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