頂-ただひとり-の編-あみ- 第五話 4
 

「やあ、忙しそうだねえ」

いつもの声が、他人事のように私の体を振動させる。

「ええ、おかげさまで。

私の目的は御存じなのでしょう? だったら、とっととやっちゃってくださいな。

何なら、もう一回やってもいいんですよ? たまにはサービスしないと」

「ふふっ、ではお言葉に甘えて、そうさせてもらおう」

しまったなあ、冗談の通じる相手じゃないか、いや、冗談と知ってて言ってるな、こいつは…

「で、今回の件なんですけど…」

「『前田』を探すために力が欲しいんだろ?」

「いや、前田じゃなくて…」

「わかっているさ、だが、事件に絡んでいる前田を探すのが、君自身の目的なのだろう?」

やっぱり、こいつに隠し事は無理だ… わかってはいるんだけど…

多分、常人の場合、こいつに向き合っていたら、5分と持たず、発狂し、

数時間で廃人になるだろう。

神依りになるには、素質と共に、いかなる状況、どんな苦痛や快楽の中でも自分を見失わない精神力を養う

訓練をこなさなければならない。

その訓練は、生まれた瞬間から始まり、その素質が無いとわかるまで続き、あるとわかった者は、

こうして、事ある度に、輝ける変態野郎連中に付き合わされる様になるわけだ。

訓練の内容は…あまり思い出したくは無いな。

だけど、どんな訓練を積んでも、こいつに出会う時には、自分の精神が焼き切れるのではないかという恐怖が

常につきまとう。まあ、快楽に襲われている時はそんなことも考えていられなくなるけど。

「何でもいいです、早く力、貸してください」

「何の力がいい? 『常に快楽により私と通じ合える力』なんてのはどうかな?」

「クソったれ、てめーのいかれた頭、カチ割って、脳味噌グッチャグッチャに踏んづける力くれよ」

「おぉう! 君の悪態は、どんな聖人の言葉よりも美しい! だが、残念だ、私には脳味噌が無い」

「いいから、前田を探すのに必要な力をくれ」

あえて、そっけなく言う。ていうか、まともに対応するのは疲れた。

「よろしい、だが、前田を探すのに必要な力では無く、ここはひとつ、

今回の事件の犯人を探すのに役立ちそうな力を与えることとしよう」

「あー、もう、どっちでもいいから」もう、投げやりだ。

「よろしい、では、口を開けろ」

「何で? そんな必要無いでしょ? 嫌な予感しかしないんだけど」

「イメージの問題だよ。与えるべきものを確実に与えてあげたいんだ。大好きな君のために」

うへ… 疲れがどっと噴き出す…

「もう、わかったから、早くしろ。 ほはぁ、ほぅあはぅいえいい?(ほら、こんな感じでいい?)」

「最高だよ! 口を開けて物欲しそうな顔をして待っている君の顔は最高にかわいいよ!」

思いっきり歯を食いしばった後、再び口を開けた。

次の瞬間、巨大な光の塊が出現したと思ったら、らせん状の光の管みたいになって、私の口に飛び込んできた。

口から胃に達し、そこから、全身に向けて光が満ちていく様な不思議な感覚。

全身の皮膚が、内側と外側から圧迫される様な、痛みとも快感ともつかない奇妙な感覚。

全く体が動かせない、一切の力が入らない、何もできない、ひたすらに焦る。

「今日も楽しかったよ、じゃあ、またね」

やばい! こんな状況で…と考える間もなく、強烈な快楽が全身を飲み込んだ。

それに対し、全く何の備えもできていない身体は、おそらく、死の恐怖ともとれる様な、

壮絶な孤独を、ただただ、襲ってくる快楽のブラックホールの中で噛みしめるしかなかった。

身体のコントロールを取り戻せたのがわかったのは、全てが終わり、いつもの補助の巫女さんが、

またいつもの微笑みを私にかけてくれるのを見た時だった。

今日も、彼女の白衣は、私の汚れで茶色くなっている…  

 

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