頂-ただひとり-の編-あみ- 第二話 12
 

蹴破った扉の向こうの風景は、コンクリートの平面と、空の広がる空間だけだった。

「やっぱり誰もいないじゃないですか、ここじゃないですよ、他を当りましょう」

紺のスーツの刑事さんはそう言ったけど、私は気にも留めず、

宙を、刀印で切り裂いた。

「仕込みはできている!私の目は誤魔化されない!」

そう私が言い放つと、私が切り裂いた辺りから、霧が晴れていく様に、

霊気が失われていく。

そして、彼女が、背を向けて立っていた。

「…誰? 私が見えるの?」

そう言って彼女は振り向く。それと同時に、手に持っていたナイフを振りかざす。

「証拠品のナイフを何故!?」

深緑の刑事さんはそう言うけど、遠く離れた人を殺せる彼女が何を持っていようと

別に不思議ではない。

「邪魔をするなら、あなた達、死んで」

彼女はナイフを振り下ろす。だが、そのナイフはただ空を切るだけだった。

「!? 何故!? 何故、能力が発動しないの!?」

彼女は、こうやって、ナイフを振り下ろすイメージで、遠くの人を殺したのだろう。

だけど、距離が遠いほど、イメージの力は及びにくくなる。

だから、皆、斬殺ではなく、絞殺体で発見されたのだろう。

では何故、目の前の私達が、彼女によって殺されないのか?

それは、簡単だ。私が結界を張ったのだ。

さっき、自動車から一旦降りた時に仕込んだものだ。

私が今張っているこの、「界理結界」は、この結界内での、あらゆる超常的な現象を無効にする。

つまり、物理法則に反した現象は一切起こらないのだ。

まあ、本当はそれが当たり前であるべきなんだけど、それを望まない何かが、

世の中をそうさせないっていう現実がある。

まあ、この場ではどうでもいいことなんだけどね。

彼女はムキになって、何度も、何度もナイフを振り下ろす。

「刃は、相手に当る間合いじゃないと、意味が無いよ」

とても当たり前のことを、皮肉たっぷりに言ってみる。

挑発に乗った彼女は、ナイフを振り回しながら全力で走り寄ってくる。

「きょ、凶器を捨てろ!」紺の刑事さんが叫んで、私の前に立ちふさがるが、

私は刑事さんを押しのけ、彼女に対峙する。

「お、おい…!」

彼女は、私に近づくと、刃の動きを小さく抑える。

私に確実に当てようと、狙いをつけるためだ。まあ、素人相手なら悪くはないと思う。

だけど、私は、彼女の、ナイフを持つ手を押さえ、コンクリートの床に押し付けた。

「こ、こんな小さな子に…」

「あなたに殺しは向いてないよ」

私は刀印を作って、彼女の首に押し当て、滑らせた。

その後、袖から、懐刀を取り出して、彼女に見せた。

「私はいつでもあなたを殺せる、そして、今、あなたの『能力』を殺した」

超常的な現象が発生しない空間ではあるが、人体は、一種の別空間みたいなもので、

人体表面には、界理結界の効果は及ばない。よって、接触による能力行使はできるが、

それは同時に自分にも危険を及ぼす可能性があるということである。

相手の知識量や経験が少ないと判断できたからこそ、こういう真似もできるってものだ。

ここに連続殺人事件が解決した…?

いや、全然。

彼女に能力を与えた者がいる。それは誰?

もしかしたら、ちえ姉さんの事にも関わっている可能性が…?  

 

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