頂-ただひとり-の編-あみ- 第二話 6
 

突如、急激な解放感が訪れた。

体中を覆っていた、まとわりつく粘膜の様な感覚が、

突然、サラサラとした肌触りの柔らかい布の様になり、

それが、全身を滑りだして、私は、全裸で空中に投げだされた様な

何とも言えない気持ちになった。

唯一、この儀式の中で好きな瞬間であるかもしれない。

私はイメージの中で、光の布の様なものが、スルスルと、身体の色んなところを滑って、

上方に集まっていくのを見た。

光の布は、やがて大きな形を作り、人の様な、何かの幾何学模様の様な、形がある様で無い様な、

そんなものになった。

光の集合体は、私の全身に響きかけてくる。私の全身が、音の塊となって、私自身に響く。

「やあ、久しぶりだね、私のかわいい子よ。」

「…お久しぶりです、神様。」

「君の聞きたいことは、知っているよ、だけど、君の体でもう少し楽しみたいんだ。」

私はつい、ムッとした気持ちになる。それを神様は即座に感じ取る。

「君のそういうところもかわいいよ。さあ、私を楽しませておくれ。」

「そういうわけにもいかないのです。それに、あなたはもう、充分楽しんだはず。

私の方は、これ以上やると、限界なのはご存じでしょう?

あなたは、せっかくの依り代を壊したいのですか?」

過度のトランス状態を続けるのは、麻薬が危険なのを考えればおわかりだろう。

事実、あまりの長時間、儀式を続けたために、精神が崩壊した巫女もいるらしい。

まだ小学生の私は、心身ともに未発達であるため、儀式は半日以内と決められている。

「獣の肉体における快楽はすばらしいものなのだ。精神が壊れようと、

なお継続するだけの価値はある。この世界の獣は、我々の為に快楽を貪らねばならない。」

無茶苦茶なことを言うが、いつものことなので私は軽く無視する。

「教えてください、彼女はどこにいるのですか?」

「まったく…君はいつも…だが、そんなところもかわいいな。

そうだ、私を侮辱する言葉を言ってはくれないか?」

「変態」

非常に素直に口に出た。

「すばらしい…! よろしい、いいことを教えてやろう。

君の知りたいことにも関係することだ。

これから数年が、人類にとって、大きな選択の時となる。

それまでに、焦る者達が現れても不思議ではない。」

「焦る者達?」

私は、何故か、ちえ姉さんのことを思い出した。

「君は大変、勘がよくて素晴らしい。勘がいいということは、快楽の感度も良い、ということだ。

こんな風に!」

「…あ ぁ…!」

不意打ちの様に、全身を得体の知れない生物がしゃぶり尽くす様な、不快感ともつかない快楽が走る。

「ふふ…君の苦悶の様子もすばらしいよ…今日は楽しかった、じゃあ、またね。」

私は真っ暗やみの中に投げ出されたと同時に、壮絶な虚無感と脱力に襲われ、

次の瞬間、強烈な悪臭を感じる。

ああ…またあれか…

儀式を終え、私が我に帰ると、床に倒れこんだ私の周囲や衣服には、汗のみならず様々な要素で、臭気や、汚れが形作られており、

補助の巫女さんが、それを片付けている姿を見て、戻ってきたのだと実感する。

「今日はまた、一段と激しく舞われておられました。」

補助の巫女さんの一人がそう言う。

私は、何だか恥ずかしい様な、モヤモヤした感覚ではにかんだ笑顔を作るしかない。

今日は疲れた…お風呂に入って、すぐに眠ってしまいたい…

 

 

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