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頂-ただひとり-の編-あみ- 第21話 9
 

合図と同時に、丸子君は、土色の剣を左手で握り、高く掲げ、右手を峰に添えた。

示現流の構えを彷彿とさせるその姿に、

「天津人の構え…」

その構えの名を知らないはずの私の口から自然と漏れた。

「そう、たたらの剣術の構えの一つ、天津人。

 古今伝わるあらゆる剣術において、最速の振り下ろしを実現させる構え」

「たたらの構え… 私は知らないはず」

「長きメズサの記憶が、あなたに教えたのでしょう」

クマの平手の速度、威力、間合いを知っている丸子君が見出したのは、その速度に勝る一撃。

そして、それこそが自分に最も見合った戦法と今悟り、この構えをとったのであろう。

得物と戦法を得て、丸子君は、今、戦士として開眼した。

間合いをはかり、クマが猛然と突っ込んでくる。

クマがある地点を通過した瞬間、丸子君の剣は、予備動作無しに動き出す。

クマも、平手を振りかぶる。

どちらが早く相手に届く?

その瞬間、信じられないことが起こった。

丸子君の剣が、クマの左肩を切り裂く。

一方、クマの右手は、丸子君の頭の近くで制止している。

あの速度の平手打ちが、慣性もなく、寸止めされることなど有り得るのだろうか?

クマが、震えた声で言う。

「なるほど… 考えたな…」

「俺は、そこにものがあれば、そこから何でも創りだせるのだろう?

 空気だって、りっぱな『もの』だろう?」

「そうだ。空気を利用して盾を創りだすこともできる」

「俺は、今は死ねないんでな、保険は何重にもかけときてえんだ。

 あんまし英雄らしくねえ戦い方だが、我慢してくれよ」

「いや、それこそ、英雄のあるべき側面なのだ。

 目的のために、命を投げ出すということは、目的以外のことでは死んではならないということ。

 そのために、時には利己的、時には残忍、そんな姿が伝説に残ることもある」

「俺が、英雄ね。ピンとこねえな…」

「そうです、今、あなたはこの瞬間から、英雄としての資格を得たのです」

その少女が言うと、

「英雄ってことは、国とか世界とか救わなきゃいけねえんだろ?

 ってことは、世界は今、やばいのか?」

「そういうことです。詳しい事は、あとで、彼女が教えてくれるでしょう」

少女が私をちらっと見る。

「まあ、こいつから教えてもらったことは、こいつ自身のことだけだからな。

 どんな話が聞けるか楽しみだよ」

「それでは、私達はしばらく彼女と話があります。

 先に戻っていてください」

「…ああ、そう言えば、ここってどういう場所なわけ?」

「ここは、神的な力で生み出された、疑似的な現実性を持つ精神世界」

「よくわかんねえや。じゃあ、先に戻ってるぜ」

「ちょっと! 私の寝顔に変なことしないでよ」

「顔じゃなけりゃいいんだな?」

「馬鹿!」

そして、丸子君の姿が消えていく。

 

私は、クマの方を見る。

「で、何の用? ど変態様」

「やはり、わかっていたか」

「わかるもなにも… ところで、メズサって人類が生み出したシステムなんでしょ?

 何で、こいつが関わってるの?」

私が、クマを指さし、少女に聞くと、

「確かに、このシステムは人類が生み出したもの。

 だけどこのシステムが、鬼の活動を制御するのに役立つと判断した神が、

 システムの運用に関わりだしたの。

 そして、鬼の活動が少しでも活発になりそうなポイントに、英雄が大量に発生する様になった」

「だけど、本来は、鬼とは関係ないシステムでしょ?」

「まあ、鬼が本当に発生しちゃうと、人類の滅亡が確定的になるわけだし、

 無関係とは言えないはずだよ」

「だけど、鬼は発生してしまった。英雄たる人材はいたはずなのに。

 その時、前田は何をしていたの?」

「前田堂座一人の力で、英雄を世界中に発生させることは不可能。

 そして、先の鬼発生には、かつて行っていた、前田堂座の活動が関わっている」

「それってどういうこと?」

「英雄的存在によって、滅ぼされようとする戦士達がいる。

 彼等も、地元の民を救おうと必死に戦った、ある意味英雄的存在であり、

 彼等に、復讐のチャンスを与えるために、前田は、彼等の鬼性を解放する活動をしていた」

「待って、私の記憶には無い」

「本来のメズサ的活動とはかけ離れた活動だからね。

 だけど、彼等は、結局不死の肉体を持てあますだけの存在にしかなり得なかった。

 英雄が本来持つ、利己的動機が彼等には少なく、

 もし、彼等が決起しても、英雄達の無根拠な爆走を止めることはできなかった」

「前田はどうして、そんな活動を…?」

「利己的動機の無い自分が、神話に名を残す英雄になれた事実。

 それが、利己的な英雄ばかりの現状に疑問を持たせ、

 自分の考える英雄像を持った人物によって、英雄を討ち倒させ、

 真の英雄の理想郷を生み出したかった」

「考えようでは、前田の利己的動機で生み出された英雄ってことだよね。

 だけど、一応『英雄』を生み出そうという目的ではメズサ的ではあるはずだけど」

「それが、鬼の解放を利用したものだから。

 英雄の素質がない者を英雄にするためには、精神に眠る、鬼を解放しなければどうしようもない」

「なるほど、鬼を何とかしようとして、システムに介入した神様の機嫌を損ねたってわけ」

「そういうこと」

私と少女は揃ってクマの方を見た。

「だから、彼の活動は、メズサとしての活動とは認められず、結果、メズサの記憶として継承されない」

「なるほどね。それで、これから私達はどうすればいい?」

すると、クマが近寄ってきた。

「鬼神の準備は進んでいる。近々、行動を起こすだろう。

 そうなれば、お前と丸子佐丸は、人類から孤立する」

「それはわかってる。何が起こるのかが知りたいの」

「おそらくは、全人類の鬼化」

「そんなことができるの?」

「条件が整えば可能だ。だが、許されることではない」

「…まあ、あなたは許さないでしょうね。で、どうやればそれを止められる?」

「止められはしない」

「は? じゃあ、私達に何をしろと?」

「鬼の宴に乗じて、鬼神を倒せ」

「それって、人間にできること?」

「できるかできないかは問題ではない。

 とにかく、やれ」

「あんたの力でどうにかなんないの?」

「人類とは、いわば、お前達の世界における、神の手足の様なもの。

 私の力を使いたくば、自分で動き、自分で解決し、私に感謝しろ」

「ああ、そうですね、あなたに期待できることなんて何もなかったよね」

「わかればいい」

「じゃあ、そろそろ戻るね、丸子君の横で寝っ転がってるのも悪いし」

「その前に私と…」

「何? 寝取られて頭にきてるの?」

「そういうわけでは… そういうことは気にしないと言ったはずだが」

「どうだか? まあいいや、じゃあ、またね」

「今日は、私を罵ってはくれないのか?」

「…めんどくさい」

そう言い放つと、何故かクマは嬉しそうにしている

そして、私の周囲は光に包まれ、気がつくと丸子君が私の顔を覗き込んでいた。

 

「…変なこと…してないみたいだけど…」

「え…? 俺の心読んだんじゃねえの?」

「… だけど、私が起きてる時にしてよね」

「… しょうがねえな」

そして、丸子君は…  

 

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