頂-ただひとり-の編-あみ- 第19話 9
 

腹に突然、衝撃が走る。

その瞬間、世界が目の前から遠ざかっていく。

段々、視界がぼやきていき、誰かが、俺の名を呼んでいる。

だけど、その声も消えていく。

俺は、死ぬのだろうか…?

 

目が覚めると、俺は、見覚えの無い天井を見つけた。

俺の身体に掛っているのは、何か高級そうな布団だ。非常に軽い。

夢なのか、あの世なのか…よくわからない。

だが、ふと、横を見ると、宮田がベッドに顔を伏せて寝ている。

ここは、宮田の部屋…なのだろうか…?

そして、俺は、初めて負けた事に気付いた。

「ああ、それで、宮田の部屋に…?」

ならば… 俺が今使っているこの枕は、宮田の枕なのか?

このベッド… シーツも、布団も、マットも、普段、宮田はここで寝ているのか?

部屋も、そう言えば、女の子らしい小物がたくさんある。

そうだ、宮田の部屋に初めて来てしまった。

なんとなく、枕の匂いをかいでみた。

自分の枕とは明らかに匂いが違う。

宮田の顔に近づいてみる。よく見れば、けっこう可愛い。

そして、そっと首もとの匂いをかいでみる。

枕と同じ匂いがした。

宮田の部屋だ。

俺は、宮田の部屋で、一晩を明かしてしまった。

気付けば、俺は、男物のパジャマを着ている。

宮田の親父さんのものだろうか?

っていうか、誰が着せた? まさか…?

そして、ズボンの中身を見てみる。

さすがに、パンツは俺のだ。

安心したような、残念なような…?

何となく、心が落ち着いてきた。

すると、自然と宮田の顔に手が伸びた。

宮田の顔をなでる。

髪もなでてみる。独特の縮れの感触が手に残る。

長い付き合いだけど、髪に触れたのは初めてだ。

枕もとに、やはり縮れた髪の毛が落ちている。

拾って、指でしごくと、つやの中に強いコシがあるのがわかった。

「宮田らしい…」なんとなくそうつぶやくと、また、宮田の顔にさわる。

普段の様子とは全く違う、脆く儚い少女の寝顔が、この世で一番愛おしいものに思えた。

そうか…俺にとって一番大事だったのは…

俺は、今までの自分の愚かさを悟り、初めて悔しさが込み上げてきた。

負けた悔しさは、もう、どうでもいい。

本当に大事なものがそこにあることに気付かなかったこと、

その大事なものが、俺のために今までしてきてくれたことに、気付かなかったこと…

その悔しさで、胸がいっぱいになった。

だが、後悔は早い。こいつのために何かをしてやれる、そんな時間はたっぷりあるだろう。

「ごめんな… ありがとうな… 今度は、俺の番だから…」

そして、再び、髪をなでた。  

 

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