頂-ただひとり-の編-あみ- 第16話 1
 

四月、この学園に入り、6年目。この学年で学ぶ最後の年となった。

三年のクラス替えは無いので、二年の時と変わらないメンバーだ。

ただひとりを除いては。

クラスの人数より一人分多い机。ここに座るべき人は、学園から除籍された。

その机を眺める男子生徒、始業式が始まる前から、始業式が終わり、教室に戻ってからも、

誰とも話さず、ずっとこの調子だ。

思わず私は声を掛けた。

「丸子君… もう、能岡さんは…」

「…」

やはり、丸子君は無言だ。そして、まるで、私の声は届いてない様子だった。

「…聞いてる? 丸子君、能岡さんは、除籍になったんだよ…?」

わざと、丸子君の感情を荒立てる様な事を言ってみた。

一応、丸子君の心はざわついているのが、私の能力で読みとれた。

だけど、極めて冷静を保っている。

いつの間にか、丸子君の精神は強くなった。

この時、もっと深く心を読んでいたら、また違った結果を辿っていたかもしれないし、

結局今の私ではどうしようもなかったかもしれない。

「…ごめんね…変なこと言っちゃって…」

そう言って、私は席に着いた。

ほどなくして先生が入ってくる。担任は二年から引き続き、東子さんだ。

東子さんは、厳しい顔つきで、高校三年という時期の、進路の選択における重要性を説く。

「いい? 高校三年ってのは、あなた達の人生を決める上で重要な時期なの!

 だから、今のうちに、自分が本当にやらなきゃいけないこと、

 そういったことを本気で考えなきゃいけないの! わかる?

 だから、この時期に、余計な誘惑や惰性に流される様なことがあってはならない。

 目の前に、大事そうな何かが転がっていたとしても、本当に、自分の人生で

 それが重要なのかどうか、しっかり考えなきゃ駄目!

 確かに、その判断が正しいかどうかは、今のあなたたちでは難しいでしょう。

 中には、間違った選択を盲信し、一生それを引きずる人だって、この世の中、たくさんいる。

 間違った選択でも、やり通せば、誇れるものになることだってあるでしょうよ。

 だけど、それ故に、一度選択してしまった道を、引き返すことは許されない!

 だからこそ、今この時、見極める目を持つことを覚えなさい!

 高校三年生は、まだ若い。多少の事ならやり直しは利くけど、

 これから一年、二年、進学するにせよ、社会に出るにせよ、

 年と経験を積み重ねることによって、どんどんやり直しができなくなっていく!

 だから、この年を、失敗できる最後のチャンスと思いなさい!

 これを終えたら、もう、後ろを振り返る余裕は出てこないよ!」

その厳しい言葉は、特に、ある生徒に向けた言葉の様にも聞こえた。

その本人は、聞いているのか聞いていないのか、誰もいない机をずっと見つめていた。  

 

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