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頂-ただひとり-の編-あみ- 第15話 6
 

その日は、午後から雪が降り始めた。

朝から、妙な不安感があったが、特に何事もなく、下校時刻になった。

丸子君は、相変わらず無気力な感じだ。

しばらくそっとしておいた方がいいのかもしれない、というのは、言い訳かもしれない。

本当は、自分が傷つくのが恐いのだ。自分の好きな人に何もしてあげられない、

知っている事を教えてあげられない、何より自分が知っている事もそれほど多くはない。

それに、何より、自分の好きな人は、自分とは違う方を向いている。

朝からの妙な不安感も手伝い、私は、泣く様にその場を走り去った。もしかしたら泣いていたかもしれない。

そして、下校途中、妙な高揚感を感じた。走って心拍数が上がったのかとも思ったが、

それが、ある方向から感じる、強い霊気によるものだということはすぐにわかった。

島の方向。

私は、港に向かって走り出した。

どんどん、霊力が強まっていく。

そして、港へ向かう道すがら、島の方向に、妙なものを見た。

天空に向かって伸びる、紐の様な何か。

遠くの方に見えるそれは、実際の大きさがどれほどのものなのか、よくわからない。

よく見ると、らせん状になっている。糸をねじって、緩めた様な、

テレビのCGでよく見る、DNAの二重らせん構造の様な。

そして、その二重らせんが、どんどんゆるみ、紐が分離して、二本になっていくのがわかった。

ほどなくして、その紐の間から何かが出てきた。

それは、まるで巨大な手の様な…その手の様な何かが、

紐を広げ、その間は、まるで別の空間が開いたかのような闇黒があった。

そして、その空間から何かが姿を現した。

それはあまりに巨大であったが、人の姿である事がわかった。

だが、全身に角の様な突起物があり、

顔は、霞がかかってよく見えない。

それが、こちらに向かって歩いてくるではないか。

だが、その巨体に関わらず、歩いても振動も足音も無い。

まるで、実体が無いかの様な雰囲気だ。

だが、目で見ることのできるその矛盾。

そして、その姿が、私の中の何かを震わせる。

そうだ、あれは鬼だ。

ついに、この世界に、鬼が解放されたのだ。

ああ、あまりに神々しい。

恐怖は感じない。ただただ、理由のわからない涙が溢れてくる。

おそらく、あれに能岡さんも関わっているのだ。だが、もう、どうでもいいとさえ思ってしまう。

能岡さんは、「あれ」になることができたのだ。

もう、人であることを超えることができたのだ。

因果の渦を抜け出した、解脱者となったのだ。

誰も理解しようとしなくていい、少なくとも私はわかる。

彼女は、もう、幸せになれるのだ。

彼女の全てが報われる。友として、祝福しよう。

能岡さん、おめでとう、ありがとう、そして、さようなら。

 

違う。

 

これで終わらせていいはずがない。彼女は確かに解脱者になれたであろう。

だが、彼女を想い慕う人はそうではない。

彼女がそうなれたからと言って、それで済まして納得できる話じゃないだろう。

それに、先日の、化け物によれば、これは恐らく人類にとって重大な出来事の前触れ。

そりゃそうだ、人の精神の奥に潜む鬼が解放されたのだ。

家に伝わる話では、鬼性の増長が、多くの生命を滅亡させてきたという。

つまりは、極端な解釈をすれば、人類滅亡だってあり得るということだ。

その考えが頭をよぎった時、初めて、恐怖心が芽生えた。

そして、あの化け物は更にこう言っていた。私自身にも変化が訪れると。

私の知人に次に会う時…?

…今はただ、待つしかない。  

 

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