頂-ただひとり-の編-あみ- 第13話 10
 

編ちゃんは、クラスの中では一番ではないものの、背の低い方で、

特別大きいわけではない私も、「小さくてかわいい子」という印象を持っていた。

だが、人の大きさは、身長に表れるというわけでは無さそうだ。

その光の柱の前に立つ編ちゃんは、「小さくてかわいい」という印象を吹き飛ばすだけの存在感、

何よりも大きな人間である、ということを表している、と私の目には映ったのだ。

ゆらり、ゆらり、と光の柱がゆらめく。

次の瞬間、雷の様な、光のひびとでも言おうか、そうだ、これはひびだ。

空間に無理やり空けた穴、コンクリートに開けた穴からひびが走る様に、空間の穴からひびが走ったのだ。

光の柱が、どんどん大きくなっていく。

光の柱が大きくなる度に、私の中の何かが解放される様な、妙な気分になる。

そして、次の瞬間、柱の中から、巨大な何か、まるで、人間の様な形をした、生き物?

あるいは、これが、神というものなのだろうか? そんな様なものが、姿を現した。

よく見てみれば、頭には、角なのか、髪の毛なのか、よくわからないが、突起物が何本も生えていて、

似たような突起物が、肘や胴体にも見受けられる。

編ちゃんは、そんな光景を目の前にしながらも、一歩も動かない。

むしろ、背筋を堂々と伸ばしている。己の存在を、その光に見せつけるかのように。

「この道を押し広げたのは、お前か」

直接、心の中に響いてくる様な声。もしかしたら、耳で聞いた声ではないかもしれない。

その声に応えたのは、編ちゃんだった。

「いかにも」

「お前は、私が何なのかは知っているのか?」

「…あなたは…鬼」

「ほう、神と区別がつくか。節穴ではないな」

「だけど、鬼ならば、人の精神の内部で眠っているはず」

「その通り、私は鬼だから、例にもれず、精神の内部に存在する」

「ということは、その空間は…」

「その通り、いわゆる、集合的無意識という奴だ。私が存在するのは、『個人の精神』ではない。

『全人類の精神』の中に分散して存在しているのだ」

「それが、こうして、一つの個体として存在しているということは…」

「その通り、全人類とは言わんが、この周囲の人間の精神に存在する『私』がここに掻き集められて、

私が存在している。」

「…あなたが、鬼神…?」

「その通りだ。私が…」

鬼神が、そこまで言うと、突然、クァ助さんが、鬼神めがけて、飛び込んで行った。

だが、鬼神は、クァ助さんを、あっさりはじき返した。

「クソ…鬼神め…我が主を…クソったれ…クソったれ…」

「カラスよ、私は、お前など知らんぞ?」

「我が主は、鬼神の謎を追ったが故に、殺されたのだ!」

「知らん、私は、私を追った者を殺した覚えは無い。だが、私を利用しようとする者はいつの時代にもいる。

大方、そういう輩にお前の主は殺されたのだろう」

「クァ助、さっき偉そうに言ってたあなたが先走らないで。こんな奴に、どうあがいても勝てるわけがない…」

「えらく弱気ではないか、神に愛されし巫女よ」

「何故それを…?」

「私を見てその態度でいられるのだ、そういう者のはずなのだ」

「まあ、どうでもいい…

答えなさい、あなたを利用しようとしているのは、誰?

誰が、この組織を利用して、あなたを呼ぼうとしたの?」

「ここまで来たのなら、私が答えるまでもない。

それに、私も、他の鬼と同様に、姿を持ってこの世界に解放されたいのだ。

下手に情報を与えれば、お前は、そいつらを潰しかねんからな」

「…つまり、あなたと私は敵同士なわけね」

「神のおもちゃと私が相容れるわけがない」

「私を神のおもちゃと呼んだこと、いずれ、後悔することになる…」

「楽しみに待っているよ」

そう言うと、鬼神は、光の奥へと消えていった。

光の柱は消えずに留まり続けている。この光がもう少し大きく開けば、

鬼神は実体を持って、この世界に現れる、ということなのだろうか?  

 

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