頂-ただひとり-の編-あみ- 第12話 2
 

自分の身体の表面に存在する全ての神経に意識を集中する。

空気が直接触れる部分、風が強く当る場所、風が遮られ、柔らかな空気が当る場所、

風に揺れる衣服が当る場所、衣服の伸縮や振動が肌に擦れる場所、帯や下着類の締め付け、

そして、自分の体内、消化器官の現在の状態、食物の消化状態、心拍、呼吸、内臓、

ありとあらゆる身体の現状を己の内部感覚で捉える。

意識はやがて、体中、総ての細胞に到達する。

体中の総ての細胞が、一つの細胞としてイメージに現れる。

細胞核の中に存在する遺伝情報、ここを書き換えるだけで、私の肉体は私ではなくなる。

その中で、ただの一つの塩基情報が輝きを放つ。これが鍵だ。

私はイメージの中でその塩基情報に手を触れた。

すると目の前の景色に違和感が現れる。すぐにそれが何かは判らなかったが、

どうやら、遠近感を失ったらしい。だが、その遠近感が再び戻り始める。

そして、足下が急にぐらついた。

見ると、私の左脚が消えてなくなっている。

私の身体はどうなってしまったのだろうか?

細胞のイメージが消え、私の身体の変化が終了した。

自分の顔を手鏡で見てみると、顔の真ん中に大きな目がひとつ。

それが、あまりに違和感なく収まっていたので大きな驚きを感じなかったのが驚きである。

脚は、やはり無くなっている。

手で触れてみると、太腿の上部を残し左脚の大部分が消失している。

左足の足袋と草履が取り残されているのが見えた。

これが、たたらの身体…

不思議と不便さは感じない。それどころか、力が腹の底から湧いて出て、体がとても軽く感じる。

こんな体で走り回れるはずがなかろうに、何故か、何よりも速く走り、高く跳ぶことができそうな気がした。

この体なら、何でもできる。見えないものだって見える、探し出せないものなんて何も無いし、

助けられない人だっているはずがない。

今、私の心身は、自信と高揚で満ち溢れている。  

 

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